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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)204号 判決

大阪府門真市大字門真1048番地

原告

松下電工株式会社

代表者代表取締役

三好俊夫

東京都新宿区西新宿1丁目26番2号

原告

コニカ株式会社

代表者代表取締役

米山高範

原告両名訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

辻川正人

東風龍明

片桐浩二

久世勝之

岩坪哲

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

瀧廣往

岡部恵行

今野朗

土屋良弘

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告ら

特許庁が、平成3年審判第2739号事件について、平成4年8月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、共同して、昭和58年1月31日、名称を「反射型光電スイッチ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭58-14163号)が、平成2年12月4日に拒絶査定を受けたので、平成3年2月21日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第2739号事件として審理したうえ、平成4年8月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月9日、原告らに送達された。

2  本願発明の要旨

被検知物体に対して光ビームを投光する投光手段と、投光手段から所定間隔をもって配設され被検知物体による光ビームの反射光を集光する受光用光学系と、受光用光学系の集光面に配設され集光スポットの位置に対応した位置信号を出力する位置検出手段と、位置検出手段から出力される位置信号レベルと検知エリア設定用ボリウムにて設定された動作レベルとを比較することにより被検知物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する判別制御手段とを具備して成る反射型光電スイッチ。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭57-176904号公報(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び実公昭57-28350号公報(以下「引用例2」といい、その発明を「引用例発明2という。)に記載された発明及び周知の技術から当業者が容易に発明できたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告ら主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例1の記載事項、本願発明と引用例発明1の一致点及び相違点の各認定は認めるが、引用例2の記載事項及び上記相違点の判断は争う。

審決は、引用例2の記載事項の認定を誤り(取消事由1)、また、本願発明と引用例発明1との相違点の判断を誤り(取消事由2)、さらに、本願発明の顕著な効果を看過し(取消事由3)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)

審決は、引用例2には「位置検出手段の出力に基いて、被検出物体が所定の検出距離範囲に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する反射形光電スイッチが記載されている」(審決書3頁11~14行)と認定しているが、誤りである。

本願発明の「位置検出手段」は、「受光用光学系の集光面に配設され集光スポットの位置に対応した位置信号」、すなわち、本願明細書及び図面第9図に記載の「集光面内に配設された2個の受光素子(20a、20b)に入射する集光スポット(s)の光量(上記20a、20b部分に対応する光量)の比率による位置信号」を出力する手段である。換言すれば、被検知物体との距離を測定し、もって被検知物体の位置を検出してその位置に対応する出力信号を出力するという位置検出手段を有する技術である。

これに対し、引用例発明2では、投光部5と受光部6とを内向きに所定角度を有して配置させるという光学系を機械的に配置する構成をとり、設定された検出領域100内からの反射光を受光することにより被検出物体がこの領域に存在するか否かのみを判別するのである。すなわち、本願発明の位置検出手段のように集光スポットの位置に対応した位置信号、すなわち位置検出手段への入射光量の比率による位置信号を出力する構成は存在しない。

したがって、引用例発明2における被検出物体の判別手段は、被検出物体の位置を測定するものではなく、単に被検出物体が一定の領域に存在するか否かを検出する手段にすぎないから、本願発明にいう「位置検出手段」を構成するものではない。

反射形(型)光電スイッチには、拡散反射形、限定反射形及び測距反射形の三つがあり(甲第8号証128~140頁)、本願発明は測距反射形であり、引用例発明2は限定反射形であるところ、引用例発明2には、被検出物体の光電スイッチからの距離に対応する信号を出力する手段も存在するが、従来技術(拡散反射形光電スイッチ及び限定反射形光電スイッチ)は、いずれも反射光の光量を電気的に変換した検出出力としているため、被検出物体の反射率に影響される。すなわち、被検出物体が反射率の大きい白色の場合と小さい黒色の場合とでは、被検出物体が同じ位置にあったとしても、その反射光の光量が異なるため、例えば、被検出物体を白色として設定、調整されている光電スイッチで黒色の被検出物体を検出することはできない。

このように、引用例発明2は、被測定物体の光反射率の影響による誤動作を生ずるおそれがあるため、異なる反射率の被検出物体位置が特定できるという意味での「位置に対応した位置信号を出力する位置検出手段」を有するものではない。

したがって、審決は、引用例発明2における「位置検出手段」の認定を誤ったものである。

2  取消事由2(本願発明と引用例発明1との相違点の判断の誤り)

審決は、本願発明と引用例発明1との相違点の判断において、引用例発明2における「検出距離範囲」が本願発明における「検知エリア」に相当し、「一般に動作レベル設定手段としてボリウムを用いることは周知のことであるから、距離を示す位置信号レベルと設定用ボリウムで設定された動作レベルとを比較して検知エリアを設定し、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到することができたものである」(審決書5頁3~8行)と判断している。

確かに、引用例発明2の「検出距離範囲」と本願発明の「検知エリア」は被検出物体が存在するか否かを判別する範囲(又は領域)を示すという点に関しては相違がない。

しかし、引用例発明2における上記検出領域は光学系の機械的な構成配置により固定的に設定されるものであり、かつ被検出物体の反射光の光量に基づく検出出力を前提として設定された範囲のものである。これに対し、本願発明の「検知エリア」は被検出物体よりの反射光の比率による検出出力に基づき、反射光の光量とは関係なく、検知エリア設定ボリウムの動作レベルの設定により、電気的に変更可能に設定されるものである。したがって、引用例発明2の「検出距離範囲」と本願発明の「検知エリア」は異なる技術思想に基づくものであり、前者が後者に相当するものではない。

また、「一般に動作レベル設定手段としてボリウムを用いることは周知のことである」との審決の認定は認めるが、この周知の感度調整用ボリウムは、被告の挙げる特公昭57-3884号公報(乙第1号証)記載の可変抵抗器(16、17)、特開昭53-17983号公報(乙第2号証)記載の可変抵抗器(181)、特開昭53-83763号公報(乙第3号証)記載の電圧源(40)の示すように、引用例発明2における感度調整用ボリウムと同様に、反射光の光量を前提として、反射光の光量の基準を設定し、その基準以下の光量は検知しないようにしたり、その基準以上の光量と以下の光量を弁別したりするために、すなわち、動作レベル設定手段として設けられている。

これに対し、本願発明の「検知エリア設定用ボリウム」は、「検知エリア」を設定するための手段であり、上記周知の感度調整用ボリウムのように反射光の光量の基準設定のために用いられているものではない。すなわち、「位置検出手段」への反射光の光量ではなく、光量の比率により「検知エリア」を設定する手段であるから、反射光量自体とは関係なく、これに影響されるものではない。

このように、引用例発明2と周知技術は、本願発明とは異なるものであるから、これらから本願発明の構成を想到することができたとした審決の判断は誤りである。

3  取消事由3(顕著な効果の看過)

引用例発明1は、本願発明と同様、投光手段、受光用光学系、受光用光学系の集光面に配設され集光スポットの位置に対応した位置信号を出力する位置検出手段及び位置検出手段から出力される位置信号レベルを持つ位置検出手段を有しているが、引用例発明1は、位置信号レベルを距離測定のために検出するのであるから、引用例発明1には引用例発明2と同様、被測定物体の光反射率の影響による誤動作防止の観点からの技術的課題の認識はない。

本願発明では、反射光の光量ではなく、光量の比率を検出出力としたため、被検出物体の反射率が変化してもその正確な位置が特定でき、背景に反射率の高い物体が存在しても誤動作を起こすことはない。

また、検知エリアは、設定用ボリウムの動作レベルの設定により反射光の光量とは関係なく設定できる。すなわち、検知エリアは電気的に容易に変更可能に設定できるものである。

以上のように、本願発明は従来技術が達成できなかった顕著な効果を奏するものである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

原告らは、本願発明の「位置検出手段」は、「受光用光学系の集光面に配設され集光スポットの位置に対応した位置信号」、すなわち、集光面内に配設された2個の受光素子(20a、20b)に入射する集光スポット(s)の光量の比率による位置信号を出力する手段であると主張するが、「光量の比率」なる用語は、本願特許請求の範囲(1)には存在しない。

また、原告らは、本願発明の「位置検出手段」は、被検知物体との距離を測定し、もって、被検知物体の位置を検出しその位置に対応する出力信号を出力するという「位置検出手段」を有する技術であるとも主張する。

しかし、このような位置検出手段を有する技術という点は、引用例1に示されており、この点で本願発明は引用例1に記載された技術と何ら相違しないのであって、審決も、この点において本願発明と引用例発明2が一致すると認定しているわけではない。

したがって、引用例2における「位置検出手段」の認定に当たって、原告ら主張のような限定を付して解すべき理由はないから、引用例2に「位置検出手段」が記載されているとした審決の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

引用例2における「検出領域」ないし「検出距離範囲」は、光学系の機械的な構成のみにより設定されるものではなく、検出レベルの設定により検出距離の限定が行えるものである。

原告らは、引用例発明2の技術は、投光部と受光部とを内向きに所定角度を有して配置することで機械的に検出領域を設定し、被被検出物体がこの領域に存在するか否かのみを判別するものであると主張するが、引用例2(甲第6号証)には「適切な検出レベルを設定することにより、この領域100を検出領域として容易に限定することができる」(同号証1頁2欄27~29行)と記載されている。すなわち、引用例発明2は検出レベルの設定により検出領域を限定することができるのであって、検出領域は機械的にのみ設定されるわけではない。

また、本願特許請求の範囲(1)には、「検知エリア設定用ボリウムにて設定された動作レベル」と記載されており、本願発明の「検知エリア設定用ボリウム」は、単に動作レベルを設定する手段にほかならない。

そして、審決は、「動作レベル設定手段としてボリウムを用いることは周知」としているのであるから、原告らの主張は何ら根拠のないものである。

3  取消事由3について

位置検出手段から出力される位置信号が反射率の影響を受けず、位置検出を正確に行うものは、引用例1に示されているとおりである。

また、電気的に検知エリアを設定することができることは、引用例2に示されているし、動作レベル設定手段としてボリウムを用いることが周知であることは、前記のとおりである。

したがって、本願発明が格別の効果を奏するものとはいえない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)について

本願発明と引用例発明1とが、審決認定のとおり、「被検知物体に対して光ビームを投光する投光手段と、投光手段から所定間隔をもって配設され被検知物体による光ビームの反射光を集光する受光用光学系と、受光用光学系の集光面に配設され集光スポットの位置に対応した位置信号を出力する位置検出手段と、位置検出手段から出力される位置信号レベルをもつ点で一致」(審決書3頁末行~4頁7行)することは、当事者間に争いがない。そして、この一致する構成は、原告らも認めるとおり、被検知物体との距離を測定し、もって被検知物体の位置を検出し、その位置に対応する位置検出レベル信号を出力するための構成であることが明らかである。

そして、当事者間に争いのない本願発明の要旨及び審決認定の引用例1の記載事項によれば、引用例発明1は距離測定装置であるため、上記「位置検出手段から出力される位置信号レベル」に続く構成として、この出力を変換して距離を直読できるようにしたものであるのに対し、本願発明は反射型光電スイッチであるため、上記「位置検出手段から出力される位置信号レベル」に続き、スイッチング作用を行うための構成として、この出力信号と「検知エリア設定用ボリウムにて設定された動作レベルとを比較することにより被検知物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する判別制御手段を具備して成る」(審決書4頁7~12行)ものである点において相違することが認められ、審決の相違点の認定が、このことを述べたものであることは明らかである。

そして、昭和54年11月発行「制御機器の正しい使い方・検出用スイッチ編」(甲第7号証)の「4.光電スイッチ」の章の「4.8 拡散反射形光電スイッチ」及び「4.9 限定反射形光電スイッチ」の各項の記載、反射形光電スイッチに係る発明を記載した特開昭53-17983号公報(乙第2号証)、特開昭53-83763号公報(乙第3号証)の記載によれば、反射形光電スイッチにおいては、スイッチング作用を行うための構成として、その前段階の被検出物体の有無等被検出物体に関する情報を検出する検出手段から出力される信号レベルと「検知エリア設定用ボリウムにて設定された動作レベルとを比較することにより被検知物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する判別制御手段を具備して成る」構成を有していることは明らかであり、この構成が光電スイッチにおけるスイッチング作用を行うための必須の構成として、本願出願前、既に周知の技術であったことが認められる。

審決が、引用例2に「位置検出手段の出力に基いて、被検出物体が所定の検出距離範囲に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する反射形光電スイッチが記載されている」(審決書3頁11~14行)としたのも、反射形光電スイッチに係る発明を記載した引用例2に、被検出物体の有無等被検出物体に関する情報を検出する検出手段から出力される信号に基づいて、スイッチング作用を行うための上記周知の構成と同一の構成が記載されていることを述べたものであり、このスイッチング作用を行うための構成の前段階である被検出物体に関する情報を検出する検出手段から出力される信号を作出するための具体的構成について述べているものでないことは、その説示自体から明らかである。

したがって、原告らが、引用例2には、本願発明の位置検出手段のように集光スポットの位置に対応した位置信号を出力する構成は存在しないことを前提として、審決の引用例2の記載事項の認定を誤りであると主張することは、審決の趣旨を誤解した主張といわなければならず、採用できない。

原告ら主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)について

(1)  本願発明と引用例発明1とが一致する上記構成が、被検知物体との距離を測定し、もって被検知物体の位置を検出してその位置に対応する位置検出レベル信号を出力するための構成であること、この出力を受けてスイッチング作用を行うために本願発明が有する上記構成は、反射形光電スイッチにおいてスイッチング作用を行うために具備しなければならない必須の構成であること、審決が引用例2を引用したのは、引用例2にスイッチング作用を行うための周知の構成と同一の構成が記載されているためであることは前示のとおりである。

そして、このスイッチング作用を行うための構成は、上記のとおり、被検出物体の有無等被検出物体に関する情報を検出する検出手段から出力される信号レベルと検知エリア設定用ボリウムにて設定された動作レベルとを比較することにより、被検出物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する判別制御手段を具備する構成であって、検出手段から出力される信号レベルと動作レベルとを比較する目的は、「被検知物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別」することにあるから、この検出手段からの出力信号は、被検出物体の有無に関する情報を検出する検出手段からの出力信号であれば足りることは明らかである。

この場合、本願発明や引用例発明1のように「集光スポットの位置に対応した位置信号」に基づく検出出力、すなわち、反射光の比率による検出出力が、引用例発明2のように反射光の光量による検出出力よりも、正確な位置を測定でき誤動作を起こすことがないものとしても、被検出物体の有無に関する情報を検出する検出手段からの出力信号であることに変わりはなく、この意味で、スイッチング作用を行うための信号としては、同視できるものであることは明らかである。

そうとすれば、距離測定装置である引用例発明1の「位置検出手段から出力される位置信号レベル」に基づいて距離を直読できるようにした構成に代えて、反射形光電スイッチの発明に係る引用例2に記載された前示周知のスイッチング作用を行うための構成を採用し、本願発明の反射型光電スイッチの構成に想到することは、当業者が容易にできたところというほかはない。

(2)  原告らは、本願発明は被検出物体の反射光の比率による検出出力に基づくのに対し、引用例発明2は被検出物体の反射光の光量による検出出力に基づくことを理由に、上記スイッチング作用を行うための構成について、審決が、引用例発明2の「検出距離範囲」が本願発明の「検知エリア」に相当するとした点、周知の動作レベル設定手段としてのボリウムを本願発明に適用できるとした点を論難し、種々主張する。

しかし、上記スイッチング作用を行うための構成において、動作レベルの設定は、本願発明の要旨に示されるとおり、予め「検知エリア設定用ボリウムにて設定され」るものであって、この動作レベルと比較されるべき他方の信号である位置信号レベルが、被検出物体の反射光の比率による検出出力に基づくものであるか、反射光の光量による検出出力に基づくものであるかに関わりなく、これら検出出力とは別個に設定用ボリウムにより設定されるものであることは、上記周知技術からしても明らかである。したがって、原告らの主張は、既にその前提において誤りといわなければならない。

そして、引用例発明2の「検出距離範囲」も本願発明の「検知エリア」も、両者が被検出物体が存在するか否かを判別する範囲又は領域を示すという点に関して相違のないことは原告らの認めるところであり、「検知エリア設定用ボリウム」に関しても、比較器の一方の入力レベルである動作レベルを設定するボリウムである点において、何らの相違は認められず、したがって、検知エリアの設定が電気的に行えることも、上記周知技術における検知エリア設定用ボリウムと何ら差異はないと認められる。

以上のとおり、取消事由2において原告らの主張するところは、いずれも理由がない。

3  取消事由3(顕著な効果の看過)について

原告らが主張する本願発明の顕著な効果とは、要するに、本願発明では、反射光の光量ではなく、光量の比率を検出出力としたため、被検出物体の反射率が変化してもその正確な位置が特定でき、また、背景に反射率の高い物体が存在しても誤動作を起こすことはないということであるが、引用例発明1も、光量の比率を用いて被検知物体との距離を検出していることは原告らの認めるところであり、そうである以上、この位置検出信号と同じ検出信号を利用して光電スイッチを構成した本願発明も、同じ効果を奏することは当然に予測されることであり、これをもって顕著な効果ということはできない。

また、検知エリアの設定が正確にできるという点は、位置検出信号が反射率及び後方の物体の存在にかかわらず正確であることを言い換えたにすぎず、引用例発明1との差異はない。

さらに、検知エリア設定を容易に行うことができるという点も、周知の光電スイッチと差異はないことは、前示のとおりである。

したがって、本願発明の効果は格別のものであるということはできない。

原告ら主張の取消事由3も理由がない。

4  以上によれば、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成3年審判第2739号

審決

大阪府門真市大字門真1048番地

請求人 松下電工株式会社

東京都新宿区西新宿1丁目26番2号

請求人 コニカ株式会社

大阪府大阪市北区堂島1丁目6番16号 毎日大阪会館北館5階 石田特許事務所

代理人弁理士 石田長七

昭和58年 特許願第14163号「反射型光電スイッチ」拒絶査定に対する審判事件(昭和59年8月10日出願公開、特開昭59-139520)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和58年1月31日の出願であって、その発明の要旨は、昭和58年2月28日付け、平成2年9月28日付け、平成3年3月23日付け各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりである。

「被検知物体に対して光ビームを投光する投光手段と、投光手段から所定間隔をもって配設され被検知物体による光ビームの反射光を集光する受光用光学系と、受光用光学系の集光面に配設され集光スポットの位置に対応した位置信号を出力する位置検出手段と、位置検出手段から出力される位置信号レベルと検知エリア設定用ボリウムにて設定された動作レベルとを比較することにより被検知物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する判別制御手段とを具備して成る反射型光電スイッチ。」

これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開昭57-175904号公報(以下、第1引用例という)には、被測定物体に対して光ビームを投射する光源と被測定物体からの反射光を受け入れる収束光学系9は、基線長Aだけ離れて設けられており、半導体光位置検出素子10の受光面は焦点面内にあり、受光面上の光点Pの位置に対応した電圧Vsを出力し、被測定物体までの距離aに反比例する電圧を出力または表示を可能にし、被測定物体までの距離を直読できるようにした距離測定装置が記載されている。また同じく引用された実公昭57-28350号公報(以下、第2引用例という)には、位置検出手段の出力に基いて、被検出物体が所定の検出距離範囲に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する反射形光電スイッチが記載されている。

そこで、本願発明と第1引用例記載のものとを比較すると、第1引用例における「被測定物体」「収束光学系」「光点P」「距離aに反比例する電圧」はそれぞれ本願発明における「被検知物体」「受光用光学系」「集光スポット」「位置信号レベル」に相当するから、両者は、被検知物体に対して光ビームを投光する投光手段と、投光手段から所定間隔をもって配設され被検知物体による光ビームの反射光を集光する受光用光学系と、受光用光学系の集光面に配設され集光スポットの位置に対応した位置信号を出力する位置検出手段と、位置検出手段から出力される位置信号レベルをもつ点で一致し、本願発明が、位置検出手段から出力される位置信号レベルと検知エリア設定用ボリウムにて設定された動作レベルとを比較することにより被検知物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する判別制御手段を具備して成る反射型光電スイッチであるのに対し、第1引用例記載のものは、位置信号レベルを表示した距離測定装置である点で相違している。

そこで、上記相違点について検討すると、第2引用例記載における「検出距離範囲」「被検出物体」はそれぞれ本願発明における「検知エリア」「被検知物体」に相当するから、位置検出手段の出力に基いて被検知物体が所定の検知エリア内に存在するかどうかを判別して出力回路を制御する反射型光電スイッチが第2引用例に記載されており、また、一般に動作レベル設定手段としてボリウムを用いることは周知のことであるから、距離を示す位置信号レベルと設定用ボリウムで設定された動作レベルとを比較して検知エリアな設定し、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到することができたものである。

したがって、本願発明は、第1、第2引用例に記載されたものおよび周知の技術から当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年8月5日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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